アメリカ人とホームインプルーブメント

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アメリカ人は家の修理や改築、コーディネーションに熱心で、何でも自分でやってしまう国民として知られている。自分自身でやる ―― 日本でも今はやりの「Do It Yourself」の精神だ。日本ではDIYとまで略して、尤もらしく使っているが、この定義はかなり日本流で、アメリカでは特に家の増改築を指す言葉としては使われていない。ではアメリカでは何と呼ばれているか。自分でやることに限定はされないが、「Home Improvement」(ホーム・インプルーブメント)という言葉が一般的と言えるだろう。

アメリカに長くいると、驚くほど安くできるホーム・インプルーブメントに多かれ少なかれ影響されるものである。最近、転居したことをきっかけに、快適な住まいづくりを目指して額に汗する日々が続いているが、それに必要なものを買い揃えるために、「Home Depot」と「IKEA」という小売店に足繁く通っている。この2つは現在、アメリカのホーム・インプルーブメントを語る上で見過ごすことのできない重要な小売チェーンだ。この2つの小売店を通じて、アメリカにおけるホーム・インプルーブメント産業を紹介したい。

Home Depot (ホーム・ディポ)

1978年に設立されたHome Depot社は、自分で家の修理や改築を行ういわゆる「日曜大工」を一般市民に普及させ、これをHome Improvement産業として確立した功績者で、現在は北米に約1400店舗を構え、年間536億ドル(約6兆7000億円)を売り上げる超巨大企業へと成長した小売チェーンである。Home Depotは、日本で「ホームセンター」と呼ばれている小売店に相当し、ネジやボルトなどの金具から、ドライバーや電動のこぎりなどの道具、大きなものでは床のタイルや材木、さらには浴槽やシャワー室丸ごとまで、大工に関係するありとあらゆるもの売っている。

Home Depotの特徴はその規模と品揃え、そして価格設定にある。平均面積が約11万平方フィート(約1万平方メートル)という巨大な倉庫風の店内には、4万から5万種類の製品が天井までびっしりと山積されている。また、多くの店舗では、植物やガーデンニング製品を揃えたガーデンセンターが外に隣接され、その広さも1万5000から2万5000平方フィート(約1400-2300平方メートル)に及んでいる。大量仕入、大量販売によってコストを抑え、商品を安価で提供することに成功しており、これが顧客にとって一番の魅力となっている。建築業者もここに買い付けに来るほどだ。

お金をかけずに自分の家を好きなようにいじるというコンセプトは、アメリカの合理主義にぴったりあてはまっている。アメリカ人には「自分の家は自分が完成する」という意識がある。つまり、購入した家を自分のニーズに合うように改築するというカスタマイズ志向である。また、アメリカ人の多くは家の購入を「一生に一度の大きな買い物」ではなく、不動産投資と考えている。物件をできるだけ安く購入し、改築に改築を重ねて後に高く売る ―― それが彼らにとって最も理想的な不動産投資だ。Home Depotは、こういったアメリカ的合理主意の偉大な支援者なのである。

Home Depot社が1999年、老舗デパートのSears(シアーズ)に代わって、ダウ工業株30種平均に銘柄をリストされたことは、小売店のあり方が急速に変化する時代を象徴する出来事だった。自分でやるということは究極のカスタマイズであり、それが時代の主流になったことをHome Depotは証明しているのである。

IKEA (アイキア)

日本でも知っている人は意外に多い。というのも、1980年代後半まで日本にもあったからだ。こちらはスウェーデンの企業で、自分で組み立てる家具やインテリア用品を扱う小売チェーンだが、日本への進出はまだDIYのコンセプトが浸透してなかった頃で、時期尚早だったのだろう。撤退してしまった。

IKEAに関してはいろいろな発音方法があって、よく議論になるが、日本の「イケア」に対しアメリカでは「アイキア」と発音している。このスウェーデン発の家具店は、現在世界22ヵ国に143店舗を持ち、年間96億ドル(約1200億円)を売り上げる国際小売チェーンに成長している。アメリカにおける存在感はHome Depotに比べればまだまだだが、それでも9州に16店舗を進出させ、若い世代を中心とした都市生活者へのアピールに成功している。

IKEAの特徴は多岐にわたっている。まず、Home Depot同様に店舗規模が大きく、品揃えが豊富だ。多くの店舗では1階にインテリア用品を、2階に家具を陳列している。店内に入るとまず2階に上がるようになっており、回廊式にすべてのセクションを見て、1階で会計を済ませるよう設計されている。また、余計なものをすべて取り払ったミニマム主義によって、低価格の設定を徹底している。家具のほとんどは組み立て式で、購入の際は箱詰めになって渡される。配達のサービスもない。どうしても必要な場合は、提携している業者が別料金で組み立てや配達を行ってくれる。その一方で、キッチンやオフィスなど本格的な設計が必要な場所には、専門のスタッフがコーディネートを行ってくれるというプロフェッショナル・サービスもある。ヨーロッパの現代・近未来的な感覚に溢れたセンスの良い家具は、スウェーデン人のデザイナーによるデザインで、これをアジアや東ヨーロッパなど労働力の安い地域で大量に生産するのである。箱詰めの家具は、輸送コストの節約も可能にしている。

IKEAには、こういったシステム的な特徴に加え、特筆すべきユニークなサービスが数多くある。まず、店内には無料の託児所があり、子供を預けてゆっくりと買い物できるような配慮をしている。託児所に置いてあるおもちゃや小物がすべてIKEAの商品というのもポイントだ。また、店内の一角にはセルフサービスのカフェテリアがあり、ミートボールやポーチサーモンといったスウェーデン料理を低価格で提供している。そしてよく見るとカフェテリアには電子レンジが。何とこれは、ミルクの入った哺乳瓶を温めるためだというのだから驚きだ。かつて世界のどこに、電子レンジを置いてある家具店があったことだろう。IKEAはこういったソフト面にも手を抜かず、ファミリー向けのレジャーランド的環境を充実させていることを強みとしている。

何故、アメリカ人がヨーロッパの家具をそれほど好むようになったか。これはライフスタイルの変化が大きな要因になっていると言えるだろう。アメリカでは最近、都市生活者が急増している。仕事のチャンスなどを求めて上京するアメリカ人に加え、各国からの移民も都市に集中している。その結果、都市生活者はアパートやコンドミニアムといった規模の小さな住居を余儀なくされる。そうなると、とかくスペースをとるアメリカの伝統的なデザインよりも、コンパクトで機能的な家具が求められるのは自然なことだ。また、家財道具が増えたことも理由の1つである。コンピュータの普及により、自宅で仕事をするいわゆるSOHOが激増し(全米で約5000万人いると推定されている。アメリカ人の6人に1人が自宅を職場として、または第2の職場として利用していることになる)、自宅にオフィスを構えることが当たり前になってきている。IKEAはこの傾向にいち早く目を付け、SOHO用家具をシリーズで提供し、品揃えを充実させて、消費者を一気に引き付けた。SOHO用家具は今日、IKEAの目玉商品となっている。

余談だが、2年前にサンフランシスコ郊外に住む友人が、「やっとIKEAができる」と興奮しながら電話してきた。彼女はロサンゼルスのIKEAにわざわざ来るほどのファンだったのだが、さすがに大きな家具は輸送の問題もあって買うことができなかった。その思いがかなって、ついにサンフランシスコ地域初のIKEAがオープンするということだった。確かに、狭い地域に人口が密集するサンフランシスコでは、住宅のサイズも小さく、日本のようなこじんまりとした家が多い。IKEAが最もふさわしいアメリカの都市の1つと言えるだろう。IKEAのオープンは、多くのサンフランシスコ住民の悲願だったのだ。

大成長を遂げたHome Improvement産業は、アメリカの他の産業にも大きな影響を及ぼすようになった。例えば、過去数年間、売上トップの座に君臨する乗用車は、フォードのFシリーズという乗用トラックだ。トヨタのカムリではない。何故か。Home Improvementを行うには、資材や道具などを輸送するのにトラックが最適だからだ。アメリカでは、1世帯につき乗用車を2台保有するのが典型的だが、そのうちの1台がトラックという家庭が実に多い。2001年の乗用車統計を見ると、売上トップ10のうち、Fシリーズに含めた4台がトラックという結果が出ている。

また、Home & Garden TVというケーブルチャンネルがあり、「庭の手入れの仕方」といった初心者向けから、「キッチンのリフォーム」などの中級者レベル、さらに「Oから始める家造り-自分で家を建てよう」といった上級者向けまで、朝から晩までHome Improvementの番組を流している。雑誌に至っては、数十種類が全米規模で売られているというから、Home Improvementがコンテンツ産業において重要な話題であることは、誰の目にも明らかである。

日本でもDIY産業は右肩上がりで、今後ますますの発展が期待される。多様化する消費者のニーズに対応するためには既製品を揃えるのも限界があるため、必要な素材を提供して後は消費者に任せてしまうというのが主流になるだろう。また、価格においても厳しい目を持つようになった日本人に、十分アピールしてくことができるのがこの産業の特徴だ。増改築におけるアメリカ人のレベルは、男女を問わずかなり高い。立派に大工ができなければ、一人前の男として認められないという一面もあるほど。これからは、日本人にも是非、頑張って大工してもらいたい。

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