都合の悪い真実

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ほとんど映画館に足を運ぶことのない私が、立て続けに2本の映画を観た。「An Inconvenient Truth」と「Who Killed the Electric Car?」だ。どちらも環境問題を扱ったドキュメンタリーで、限られた映画館でしか上映していない。だが、それなりに健闘しているようだ。

前者は地球温暖化の危機的状況を伝えるために、アル・ゴア氏が世界各地で行っている講義の内容を映画化したもの。ゴア氏が自ら目撃した環境破壊の現状や時間をかけて調査した地球温暖化に関する膨大なデータが紹介されている。

ゴア氏といえば、クリントン政権で副大統領を務め、2000年の大統領選に民主党代表として立候補し、大接戦の末、ブッシュ現大統領に敗れた人物である (アメリカ史上ではそういうことになっている)。学者肌を持つ政治家として知られ、副大統領在任中には情報技術(IT)の可能性をいち早く認識し、その開発・促進に向けた政策を誰よりも熱心に進めてきた。環境問題にも精通していて、環境保護政策で常に主導的な立場にあった。大統領選後に政界の前線から退き、現在は講演や研究といった活動に多くの時間を割いている。その中心が環境問題への取り組みである。

講義の中でゴア氏は、まず「大気圏」というのが地球の中で最も壊れやすく、最も深刻な危機に直面している自然環境であることを強調する。そして、アメリカ が環境問題で他国に対していかに遅れをとっているか、いかに規制が緩いか、いかに国民の意識が低いかを、あらゆる統計や証拠を使って示していく。さらに、 実際にアメリカで起きている環境破壊や2005年のハリケーン・カトリーナのような自然災害を例にあげ、地球温暖化がすでにアメリカ国民の日常生活を脅かしていることを指摘する。

アメリカで最も排気ガス規制が厳しいカリフォルニア州の基準でさえ、中国の基準を大きく下回っているなど、興味深いデータはところどころにあったが、目新しい情報というのはなく、環境問題を考えている人にとっては既知の事実を再認識する内容に過ぎない。但し、環境問題初心者のアメリカ人にとってはショッキングだったはずだ。日常の心掛けを変えるきっかけになるかもしれない。個人的には、ゴア氏の講義という1つの情報源だけでなく、もっとたくさんの専門家に取材し、検証型の内容にしたら、ドキュメンタリーとしてはより面白くなったのではないかと思う。

後者は1990年代後半にアメリカ市場に登場した電気自動車(EV)が、なぜ忽然と姿を消してしまったのかを追跡したドキュメンタリーだ。製作者などは まったく違うが、前者と協力して相互の作品をプロモーションしたりしている。

ガソリンを一切使わず、電気だけで走るEV。ガソリン代がかからない、排気ガスを出さない、驚くほど静かでスムーズな走行など、その利点は多かった。実は EVをいち早く実用化し市場に導入したのが、今は燃費の良い車が作れなくて経営不振に陥っている世界最大手メーカーのジェネラル・モーターズ(GM)なのだ。生産量で はトヨタも負けておらず、政府機関や大学の公用車として広く採用された。EVの普及とともに、カリフォルニアでは街中にバッテリーの充電ステーションが設 置され、インフラも整いつつあった。

ところが2000年以降、どの自動車メーカーもEVの生産を中止しただけでなく、既存のEVを利用者から回収し始めた。そしてEV愛好者の激しい抗議活動にも関わらず、回収したEVをスクラップし、文字通り闇に葬り去ったのである。税金を投じて設置された充電ステーションはそのままだが、EVが姿を消した今は無用の長物となってしまった。

映画には7組の容疑者が登場し、「EVの殺人犯」を探すストーリー仕立てになっている。犯人が誰であるかは割愛するが、殺人の動機は実に注目すべきものだと思った。つまりこういうことだ。メーカーはEVの研究開発を行い、政府もEVを支持した。多くの消費者が興味を示し、入手にウエイティングリストができた。しかし、EV技術が短期間であまりにも発達し、実用化され、普及してしまったため、これがガソリン車に代わる本格的な脅威となってしまったのであ る。しかし、それでは都合悪い人がこの国にはあまりにも多すぎる。だから、既に実用化されている技術を「実用的でない」と否定し、殺してまでも自己の利益 を守らなければならなかったのだ。過去にもそうしてきたように。

こちらのほうが、ドキュメンタリーとしては純粋によくできていると思った。多くの専門家や関係者の証言を取り、データや映像を集めた検証モノである点も評価できる。実際、映画館での観客数は前者よりもずっと多かったし、上映が終わるとみな拍手して歓声を上げていた(こういうところがアメリカ人)。2つの作品は共通する部分も多いので、セットで観るとアメリカの環境問題に対する現状がより明らかになってくるだろう(日本ではDVDを待つことになるのかもしれな いが)。

資源の乏しい国に生まれ、節エネルギーは生活の一部、「もったいない」という発想を持つ日本人に対し、「資源は無限にある」、「そんなに簡単に地球は破壊できない」、「自分の生活が不便になるのは嫌」というのが平均的なアメリカ人の考えだ。そんな考え方を変えることはできるのだろうか?20年も30年も待っては いられない。保守派の中には、地球温暖化がリベラルの掲げる嘘っぱちのプロパガンダだと本気で信じている人もいる。環境問題が超党派の支持を得ていない先進国など、ほかにあるのだろうか?そして極めつけ。どうして地球環境にとって決定的に重要なこの時代に、石油によって政治生命が成り立っていて、環境問題 において世界で最もふさわしくない人間が、アメリカ大統領を8年もやることになってしまったのだろう?

2つの作品に共通する部分を考えれば考えるほど、こう思わざるを得なかった。しかし、ここで立ち止まっているわけにはいかない。自分が率先してアメリカ人の考え方を変えなければいけないのだ。

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