インディ映画「My Big Fat Greek Wedding」に見るアメリカ

今日は嬉しいニュースが飛び込んできた。独立系コメディ映画の「My Big Fat Greek Wedding」(以下、Greek Wedding)の累積興行収入が、この週末ついに1億ドル(約120億円)の大台を突破したという。今年4月の公開以来、口コミでその人気がじわじわと 高まり、週末ランキングでも最高で2位につけた。この調子でいけば、インディ映画として過去最高の1.4億ドルを売り上げた「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」の記録を塗り替えることになる。 嬉しいのはもちろん、この作品を個人的に気に入っているからだが、もう1つの理由は、制作費がたったの500万ドル(約6億円)という地味なインディ映画 を、これほど多くのアメリカ人が支持したことだ。数十億、数百億という制作費と莫大な広告宣伝費が当たり前とされるハリウッド映画が圧倒的な存在感を持つアメリカで、独立系映画や外国映画がヒットを生み出すのは容易なことではない。アメリカ人も概して言えば、娯楽性の高いメジャー系映画に慣れ親しんでいて、それ以外の映画にはほとんど関心を持たない。そんな中で、Greek Weddingの健闘ぶりはこの夏のエンターテイメント業界の話題の中心となった。 舞台はシカゴ。主人公のテュラ(二ア・ヴァルダロス)は、アメリカに移住したギリシャ人の父ガス(マイケル・コンスタンティーン)と母マリア(レイニー・ カザーン)から、祖国の文化を厳格に教えられて育つが、周囲のアメリカ人に溶け込めない自分にどこかコンプレックスを感じていた。30歳を迎えても独身 で、両親の経営するレストランでウエイトレスとして働くさえないテュラに、周りが心配して結婚の話をもちかける。ギリシャ社会では、ギリシャ人と結婚してギリシャ人の子供を生むことが女の務めなのだ。しかし、彼女が非ギリシャ男性のイアン(ジョン・コルベット)と恋に落ちてしまったことから、家族・親戚一 同を巻き込んだ大騒動が始まる… 異文化間のロマンスという新しくも何ともないテーマだが、この作品の面白さは、多文化の融合するアメリカの側面を、マイノリティ(つまり非ワスプ)の視点で思い切りコミカルに描いているという点だ。とにかく最初から最後まで爆笑シーンを連発するGreek Weddingに、娯楽性を追及した人も少なくないだろうが、その一方で多くの観客が何となく身に覚えのあるものを感じながら、この映画を楽しんだことも事実なのだ。アメリカでは移民の数が増加の一路を辿っている。多くの移民は大都市に住み着くが、最近は人口5000人の町にも中国人の経営する中華料理店ができるくらい、移民は各地に浸透している。その結果、異文化コミュニケーションはアメリカ人にとって重要な関心事となった。 この映画がアメリカ人にうけたもう1つの理由はノスタルジーである。父親のガスは絶対的な父権で家族をまとめようとする頑固者、そして母親のマリアは家庭的で優しいみんなの理解者。家族や親戚と深い絆でつながった彼らの伝統的な暮らし方に、アメリカ人は自分たちが失ってしまった価値観を思い起こすことになる。そういった周りとのつながりがうっとうしくなって、プライバシーを尊重する現在のような社会を作ったわけだが、一方で朝から晩まで台所に立ってじゃがいもの皮むきをするような母親の姿も、アメリカでは見かけなくなってしまった。アメリカ人は、映画の中のギリシャ文化に、古き良き時代のアメリカを重ね合わせたのだ。 そしてテュラと同じマイノリティの立場として注目したいのは、この映画がアメリカで「祖国の文化」を誇りに思い、伝統を継承するマイノリティを祝福してい る点だ。チャイナタウンやリトルインディアなど、移民が各地に形成するエスニック・コミュニティは拡大を続けており、文化を維持するだけでなく、政治的、 経済的な力もつけるようになった。ワスプ中心の主流社会に合わせなければいけないといったこれまでの雰囲気は変わり、「民族性」が自分のオリジナリティという認識が広がり、特にこの数年は民族性が「格好いいこと」とさえ捉えられるようになった。1960年代の公民権運動を経て、90年代に移民の急増を経験したアメリカは、多民族文化を包み込むことができる成熟した社会を確実に形成しつつある。この映画はそんなアメリカを明るく祝っているのだ。 この作品が非ワスプの視点で描かれていると書いたが、とにかく何をするにしてもビッグでファット(豪快)なギリシャ人についていけないワスプの人をコケにしている場面がたくさんあって、多分マイノリティの人はスカッとしたはず。その一方で、これでもかというくらいギリシャ文化をジョークにして笑い飛ばす内容なのだ。ギリシャ系の知人に映画の信憑性について聞いてみたところ、大げさな部分はもちろんたくさんあるが、何かというと親戚一同が数十人単位で集まってくるところなどは、否定のしようがないと言っていた。 日本での公開はまだ未定だが、早ければ来年早々に上陸という噂もある。移民で成り立つ国で人々はどうやって生きるのか、移民を受け入れるとはどういうことなのか、連発されるジョークの合間にそういったアメリカの現代社会を読み取って欲しい。日本にとっても他人事ではないはずだ。