開戦 市民とマスコミ

昨日、ついに開戦となった。 アメリカでは、イラク攻撃に関する議論が昨年からずっと続けられてきた。議論して議論して、それでも止められなくて、「ついに始まってしまった」という感じだ。しかし日本では、知識層などの一部を除いて、なんでアメリカがイラクと戦争をするのか分かっている人は、ほとんどいないのではないだろうか。 日本のメディアが取り上げるのは、来る日も来る日も北朝鮮のことばかり。確かに、それが今の日本にとって重要なニュースだということも分かるが、北朝鮮の話題は結局、日本人の感情論に基づいた国内ニュースでしかない。そして、同時期に本当の国際ニュースだったアメリカのイラク攻撃については、ちっとも真剣に報道してこなかったのである。 それが、いよいよ開戦となると、中東に自社のスタッフやフリーのジャーナリストを何人も送り込んで、「4ヵ所から生中継」などと自慢している。開戦から一 夜空けた今日は、どのテレビ局も特番を組んでいる。混乱するのは国民だ。昨日まで北朝鮮、金正日と騒いでいたのに、急に一変してどのマスコミも戦争の話題一色に染まった。街頭インタビューのマイクを向けられても、みな「え、戦争やるの?なんで?」という感覚なのだから、コメントのしようがない。ニュース番組でおばさんが「戦争は嫌です。絶対に」と答えていたが、せいぜい出てくるコメントはそれくらいだろう。 インタビューされた方も怒ればいいのだ。「なんなんだよ。昨日まで何にも伝えてないのに、突然マイクを向けて、戦争についてどう思いますかって言われたって、分かるわけないだろう!」ぐらい言えばいい。日本人は人がいいから、戦争について知らないのは自分の知識が不足しているせい、自分の責任だと思ってい る。しかし、マスコミは教えてくれないから、こっそり私のような人間に聞いてくるのだ。「一体どうなっているの、アメリカは!?」 そういえば、湾岸戦争の時にまだ日本にいた私は、ある日突然「戦争だ!」と告げられ、予定していたアメリカへのホームステイ・プログラムを訳も分からず延期したのだった。背景も理由も分からないから、「よりによってこんな時に戦争なんて…」と身勝手なことを思っていた。あの時、私が無知でバカなだけの女子大生だったこと以外にも、原因はあると思う。あれから12年たって、フラッシュバックを見ているようだ。 しかし、マスコミの問題はなにも日本だけではない。同時多発テロ以降、政府のプロパガンダ屋となったアメリカのマスコミが、国際レベルでのイラクの議論をきちんと伝えたかと言うと、それも同意できない。アメリカにべったりのイギリスの国営放送であるBBCですら、イラク問題の報道視点は米大手メディアと違っていた。視聴率アップを狙うために極右に転換したフォックスという例もある。戦争が現実化したのは、メディアが体制側についたからだと言う声も聞こえている。 同時多発テロの後、「そもそも何故こんなことになったのか」というテーマを米メディアが掘り下げることはタブーになった、と日本にも伝えられているそうだが、それは本当だ。私はテロの背後にある中東情勢やアメリカの外交のやり方について、ほかの国のメディアや文献などを通じて知った。そして、そういう話をアメリカ人に持ちかけても、「なんなんだ、この日本人?どっからそんなデマカセ仕入れてきた?」というようなリアクションしか受けなかった。アメリカ人は地元紙は読むが、間違っても他国の英字新聞などは読まない。フレンチ・フライをフリーダム・フライと呼んで喜んでいる人達だ。 マスコミが「見る側の興味のあるもの、見る側の感情を損ねないもの」だけに焦点を絞っていくことが、結果的に見る側のためになるのかどうか、これはエンドレスな議論だ。「ニュースも商品、売れるものだけを報道する」というやり方もある。しかし、それが結果として世界から取り残されることになっても、戦争を招くことになっても、やる価値があるかどうか、この機会に考えてみる必要があるだろう。